本を読む恋人たち その2

 約束の期日、つまり日曜日の午後二時少し前、西川は前と同じかっこうで図書館へ来ていた。

 竹本は少し遅れて、午後二時二十分ごろにあらわれた。いでたちは前のくたびれたスーツとちがい、パステルカラーのラフなポロシャツにパンツ、というものだった。だが心なしか、高そうな服に着られている、という不自然さがただよっていた。肩にかけたバッグだけが、前と同じくよれよれで、こちらは風貌としっくり来ていた。

「お待たせしませんでしたか?」

 竹本が少し不安そうに訊く。彼女はかすかに笑みを浮かべて、

「いえ、ここには暇つぶしの材料がいくらでもあるので、ぜんぜん構いません」

 待たせたのがよかったのか悪かったのか、彼は答えに困ってしばし黙ったのち、こう切り返す。

「では、よろしいですか?例の本は」

「ええ、読み終わりました。どうぞ」

 竹本は差し出された本を受け取り、

「どうでした?これは」

「まあ、一言で言えば一読には値します。でも、これを千いくら払って手に入れるべきものかというと、微妙なところですね。この人の本は当たり外れの幅が大きいですから、私も購入には慎重です。いつもは店頭に出たとき確かめるのですけど、今回は機を逸してしまいまして、図書館に届いたら検討しようと思ってました。ですが、もともと発表前から何かハズレっぽいような気がしていたので、ここで借りて正解でしたね」

 おい、このあいだと話が微妙に違うじゃないか、と竹本は突っ込みたかったが、彼女の真剣な顔に呑まれて、何となく切り出せずにいた。すると彼女が、

「で、これからどうされます?」

 え?後の予定を訊くのか?と彼の頭の中でピンクのハートが舞ったが、

「本をすぐに借りますか?でしたら、返却の手続きがまだですので、私も一緒にまいります」

 一瞬で彼のテンションは下がる。しかし、図書館の中で二人連れ立って歩くのも悪くない、とすぐに気を持ち直した。ここにはいろんな人が訪れるが、中にはいい歳の夫婦が貸し出しカウンターに並んでいたりして、そういうのは何かかっこいいな、と竹本はつねづね思っていた。できればいずれ、そんな風になりたい、とも。

 そしてはからずも、人生で三番目くらいの願望を果たした彼であったが、いざそうなってみると大した感激はない。ただ、右ひじのあたりがむずがゆかった。
 すべての手続きがすみ、晴れて新着本が竹本の手に渡ったが、彼の関心はそっちより当然、西川にあった。彼女はやるべき事を終えるとすぐにきびすを返し、顔だけ彼の方に向けて、

「それではよろしいですね。お疲れさまです」

 とことばを残し、そのまま行ってしまおうとした。

 竹本の心の中で、今だ、やれ、という声が響く。住所とTELを聞け、さもなくば携帯アドレスだ、それがだめなら私用のメールアドレスをぶんどれ、とにかく彼女とのつながりを確保するんだ、過去の失敗から学んだ教訓が人格化して、そう叫んでいた。

 拒否されるのが怖い、とおじけづく竹本を、心の声がひたすらののしる。一歩、二歩、三歩、彼女が離れていく。何をしてる、早く行け、その声を押し黙らせるべく、彼は心にプレッシャーをかけた。頬が引きつる。

「あの!」

 四歩。そこで西川の歩みは止まり、

「はい?」

「あの……ブログ、拝見させていただきます。本読みのブログは、だいたい面白いですので、お気に入りにいれて常時チェックします」

 彼女はちょっと考えて、

「あ、そうですね。ありがとうございます。私もつとめて更新するようにしてますから、まずはご一読ください」

 と、もう一礼し、すたすたとドアの向こうへ行ってしまった。

 虚脱感に襲われる竹本だったが、自らのわずかな歩み寄りがムダでなかったことを、彼女のことばの一端から何となく感じていた。



 竹本は間借りしているアパートに戻るとすぐ、パソコンを立ち上げてブラウザのアイコンをクリックした。

 西川夕美のブログを読むためだ。

 彼女が普段どんなことを考えているのか、知りたくなったのだ。先日、名刺を渡された時はブログのことまで考えが至らず、今になって別れ際の自分のことばを思い出し、気にかかるようになった。

 ブラウザに画面が変わると、URL記入欄に彼女の名刺どおりに文字列を打ち込み、ENTERキーを押す。

 出た。

 メインタイトルは「NYのつれづれなること」。

 同類には彼女が読書家であることが簡単に知れるが、引用の仕方が初歩的だ、竹本は思った。わかりやすさを狙ったのかもしれない。しかも、彼女のイニシャルがニューヨークを思わせ、ちくはぐな印象を与えているが、これもわざとだろう、と彼は当たりを付ける。そうであれば、なかなか心憎い演出だ。

 しかし本文に目を通すと、あれだけ好きな本のことは、なぜかあまり書かれていない。記事の大半は、OLのブログによくあるような、友人の誰々と逢ってどんな話をしただとか、どこそこのリストランテに行って何々がおいしかっただとか、そういうものばかりだった。バックナンバーを当たってみると、簡単な書評を並べているところも少しはあった。だが本好きなことがうかがえるのはそれくらいで、後はまるで芸能人が金をもらって書いているような、ヒット数目当ての雑談なのだ。

 竹本は失望した、というか、裏切られたような気がした。

 自分のことについて触れられていないのも少し残念に思ったが、全世界に公開している手前、それは仕方があるまい。

 しかし、自分とともに本についてあんなに熱く語っていた彼女の姿は、うそだったのだろうか。

 がまんして読み進めていくと、何だか彼女は日々、悩みも何もない明るく楽しいOLライフを送っているように見えて、わずかだが彼の内に、腹立たしさのようなものが湧き上がってきた。

 自分が感じるように、日常の中で何か不満に思うことはないのだろうか。

 だが彼はここで、少し考える。

 普通の人は、よほどの著名人のものでない限り、ブログの中にある書評などなかなか目にとめない。

 だから彼女はカモフラージュとして当たりさわりのない雑記を並べ立て、その中に自分が本当に書きたい書評をまぎれ込ませ、なるべく多くの人に自分の意見を知らしめようとしているのではないだろうか。そう見ると、何も考えていないOLが楽しげに書いた記事だと思わせる、彼女の文章力は大したものだ。

 もちろんこれらの記事に書かれた肖像が、彼女の素である可能性も捨てきれない。

 竹本の人生経験、女性経験では、ここまで考えるのがせいいっぱいだった。ほんとうに彼女の実像を知るには、直接会ってコミュニケーションを取るよりほかに道はない。

 思い切って彼は、ブログの最新記事にコメントを寄せることにした。当然ながら、記事についてではない。

 竹本はタバコに火をつけ、コメント欄に「竹本です。今日はありがとうございます。ブログ拝見しました。これがあなたの本心でないことを、私に直接、説明してくれませんか?」と、慎重にタイプする。そしてタバコの先にたまった灰を灰皿に落とし、さらに「もし、あなたがわたしに関心がなかったり、あなたが記事に書いてある通りの人物だとしたら、あなたに接触するのは金輪際やめます。でもそうでなければ、名刺のE‐メールアドレスに一報をお願いします」と記した。

 ひょっとしたら、最後の賭けだった。

 送信のボタンをクリックする。

 すぐに返事が返ってくるはずはないので、彼は西川のページを閉じ、すぐパソコン上の別の作業に移った。

 そのさなか、心は乱れっぱなしだった。

 夜も更け、作業が終わって日も改まり、その間にメールが届いていないか確かめようと、竹本はメーリングソフトのアイコンをクリックした。

 ウィンドウが開くと、その中に次々と新着メールが表示されていく。ほとんどが仕事関係だ。会社の人間から来ているものもあり、読んで返信しようとリストをポインタでなぞっていたら、その中に見慣れないハンドルネームを見つけた。

 誰かは特定できない。スパムか迷惑メールか、すぐにゴミ箱へ捨てようと思ったが、その頭文字が「NY」と読めることに彼は気付いた。

 ひょっとしたら、と恐る恐るクリックすると、その文面の頭に「西川夕美です。」とあった。

 彼女だ!

 彼の頭にたれこめていた暗雲はまたたく間に消え、再びピンクのハートが舞った。

 しかし、これが彼女の心中をつづったものだとしたら、彼を拒絶する返事かもしれない。頭と腰を落ち着け、祈るようにその先を読んだ。


「コメントありがとうございます。
 読ませてもらいましたが、どうもあなたは、何か勘違いをされているようです。
 あの記事を書いた、私の本心は文面そのままです。
 別に私はつね日ごろから、あなたと話したようなことばかりを考えてはいません。私も人間ですから、普通に食べたり着たり物を買ったりする事に関心があります。ただそれを一種のストレス解消法として、ブログの形でまき散らしているだけです。
 つまり、普通の女のおしゃべりです。
 本についての話は、ほんとうに本が好きな人に対してしかしませんし、それをブログに書き込むとなると、むしろ私が書く作業で疲れてしまい、ストレス解消にはなりません。
 だから二つとも、本当の私の心の内です。私はあなたが考えているような、小難しい人間ではありません。
 そうかといって、あんな詮索をするあなたが嫌いになったわけではありません。本好きの友だちは極めて少ないですし、たまにはあんな話を他人とくり広げてみたいです。深謀遠慮せず、うわべだけ合わせる人に合わせて話すのも、私にとって辛いですから。
 あの図書館にまたおいでになるのだったら、またその時にじっくりお話ししましょう。
 今はこれが精いっぱいです。もう眠いので、これで失礼します。AM0:12」


 これはどういうことだろうか。

 メールでこんな説明をする女も初めてだし、何よりこんな理論的に文章をつくる人も、そうはいない。竹本でも、読むのに疲れてしまう。

 しかし後ろの方を見ると、別に彼女は彼に対して、悪い感情を抱いてはいないように受け取れる。話をしたい、と書いているのだから、少なくとも彼女の方に会う気はあるのだ。

 すべてを受け入れているのではないが、とりあえず及第点は取っている、彼にはそう読めた。竹本は安心して睡魔に襲われ、そのままキーボードにうつぶしたくなったが、何とかこらえて万年床にもぐり込む。

 明日も仕事だ、彼は心が軽く浮くのをおさえ、ふとんの中でパジャマに着がえた。



 それから数日間、竹本は西川のことを忘れたように、仕事に打ち込んだ。
 いや正確には、仕事があまりにも忙しくて、彼女のことを考えるヒマすらなかったのだ。

 もちろん彼は、彼女のことを常に意識していたかった。

 しかしIT企業というところは、外からは華やかに見えても、中ではふつうの会社に勤めるより上の努力が求められる。何しろ実力主義なのだ。それは実力しだいで待遇がよくなる、というおいしい面ばかりではない。その人の業績が悪ければたちまち切られてしまう、つまり、実力のなさが問われもするのだ。そういう社風だから労組も力を持たず、個々人の努力のみで仕事を取り、回していくしかない。

 そして彼は、流れの速い川を泳ぐのに必死なあまり、岸辺に咲く可憐な花を見落としていたのだ。

 その日も仕事が終わり、疲れ切ってアパートに帰るとすぐ、ビールをひと缶空けて息をつく。そして、パソコンを立ち上げて電子文庫を開き、その文面に目をやりながら、コンビニで買って来たカツ丼弁当を味わう間もなく空の胃に流し込んだ。

 いつものルーティンをここまで演じたところで、竹本はふと、これではいけない、と感じて動きを止めた。

 彼女に逢わなくては。仕事ですさんだ心に、清らかな風を送らなくては。

 彼女と連絡を取るには今のところ、彼女のブログのコメント欄に書き込むしかない。しかしあれに「逢いたい」などと書いても、ネットストーカーとしか思われないのがオチだろう。彼女から送られてきたメールにも、彼女のアドレスは載っていないのだ。

 彼はパソコンの画面をながめながら、何かいい方法はないか考えた。無意識のうちに彼女から送られたメールを開き、その文章をポインタでなぞる。

 そのとき、彼の頭にひらめくものがあった。

 彼女のメールアドレスを、取得するのだ。

 方法は簡単、メールの文面をまるごとアドレス帳に追加すると、その後に出るウィンドウに送信者のアドレスが表示される。それをコピーペーストしてアドレス帳に貼り付ければよいのだ。仕事でパソコンを使いまくっている竹本なら簡単に出来ることだが、ずっと仕事で疲れていたので、そこまで考えがおよばなかったのだ。

 さて彼女のアドレスがわかり、メッセージを書く段になると、何を書いてよいのかまったく思い浮かばない。彼も女を口説いた経験は少々あるが、いずれも面と向かってであり、文章で想いを伝えたことなど一度もなかった。

 考えあぐねて、仕方ないと竹本はストレートに「もう一度、逢って欲しい。話がしたい」的なことばを、近況をまじえて簡潔にならべた。彼も少しは文章を書くが、いくら美辞麗句を尽くしても、彼女の読む力をもってすれば逆効果になるではないか、と思ったのだ。

 いったん文章を作ってしまうと気が楽になり、彼はためらいもなく送信のボタンをクリックし、夕食の残りを腹におさめた。すぐに返事が返ってくるはずはないので、ふたたび電子文庫をひらいて読みふけっていると、しばらくしてメールの新着を示すチャイムが鳴った。

 また仕事関係だろう、と竹本は気軽にメーラーを開いた。すると、


「西川夕美です。
 お仕事お疲れさまです。
 私もここのところ仕事が立て込んでいましたが、週末には余裕ができそうです。
 そこで、私からもお願いがあるのですが、また図書館においでくださいませんか?
 先日の、例の本を読まれた感想を、ぜひともうかがいたいのです。
 コアなファンのわがままかもしれませんが、あなたがあの著者を、その著わした本をどう思われるか、非常に気になるのです。
 日時などはまた後日、メール上で打ち合わせましょう。それでは」


 こっちは一世一代の告白をしたつもりなのに、こんな返信をもらって少し肩すかしを喰らった気分になったが、ともかく向こうも再会を望んでいることがわかり、嬉しさと脱力感がいっせいに彼を襲った。



 それから二人は、ときどきEメールを交わすようになった。

 その内容はたいてい、いつ図書館へ一緒に行けるか、というものだったが、竹本は納期前でまったく動けず、西川も仕事で忙殺され、休日出勤も立て込んでいるらしく、なかなか日程が合わなかった。

 そして、申しわけ程度に近況を伝えているほかは、二人のプライベートに関する事がら、特におたがいの相手に対する気持ちは、まったくと言っていいほど書かれなかった。

 竹本が西川を想っていることは彼女も気づいているはずだが、彼女のメールには自身の気持ちをあらわすことばがなく、竹本のもスケジュールが合わないことに対する弁解ばかりで、色っぽい文章はなかなかあらわれない。

 そうして三週間が過ぎたころ、ようやく日程が合い、その週の水曜五時半に図書館で落ち合うよう、メール上で約束を交わした。

 その直後、竹本はアパートの部屋でひとり、床に散らばっている大量のプリントアウトをくしゃくしゃに丸め、宙にぶちまけた。近所迷惑になるので、大声を出しはしなかったが。

 そして件の水曜五時半少し前、竹本は仕事帰りでろくに着がえるヒマがなく、よれよれのスーツのまま図書館のエントランスに入った。

 前回、初めてことばを交わした時はもう少しましな格好だったから、彼女はこれを見て幻滅するのではないか、と竹本は要らぬ心配をしながら、ラウンジに座り本をめくっていた。

 それから十分後、西川は時間通りに現れた。

 彼女はいつもの黒いスウェットではなく、やる気のないOLがいかにも仕事帰りに着ていそうな、グレーのさえないスーツをまとっていた。スカートはひざが完全に隠れていて、ひだのよれもひどかった。

 しかし、そんなことなど竹本の目には入らない。開口一番、

「お仕事の帰りでしたか?」

「はい」

 彼女はなぜか、彼から少し離れたところで立ち止まった。それに、こころなしか縮こまっている。表情も沈んでいた。不思議に思いつつも、構わず竹本は、

「ここでもいいですけど、話をするなら適当なところをセッティングしませんか?そっちが落ち着きますよ」

「いえ、私は話を聞いたらすぐ帰ります。ごはんを作らないと、いけないので」

「え、家族がいらっしゃるんですか?」

 竹本は、なかばさぐりでこう訊いた。すると西川は小さい声で、

「いえ、一人暮らしです……」

 彼女はますます小さくなったが、彼は安心したようにため息をつき、

「なら、外で食べていってもいいでしょう。私は構いませんよ。何なら支払いは三一にしましょうか。私が話をうかがうので」

「いえ、それは困ります」西川はあわてて、「話をうかがいたいのは私ですし、私そんなに余裕がなくはないです!つまり、その……」

 西川の困った顔を見て、竹本は落ち込んだ心持ちを内に隠す。そしてやさしい声で、

「あなたも、忙しいところを抜け出してきたんでしょう。今日、無理して私に付き合う必要はないですよ。私はとりあえず、あなたの顔を見られただけで結構です。話はまた今度にでも」

「いえ、そういうわけではありません!」

 彼女の強い調子に、竹本は押される。続けて、

「ただ、私、今日は、あなたにお会いするべきではなかったと思うので……いえ、あなたが悪いのではなくて、私はここのところ……………」

 彼は西川の、次のことばを待つ。しかし、沈黙は長かった。そして、

「昨日は、残業が徹夜で、風呂に入れなかったので、今日のところはこれで……」

 すると竹本は突然、拒むいとまも与えず彼女の肩を抱き、図書館を出てその裏手に回った。

 何をされるのだろう、かすかな期待に上書きされた、とてつもない不安を胸に、あらがいもせず西川は彼に導かれる。

 そして、ふだんはスカッシュの壁打ちに用いられる(当然マナー違反だが)、窓のない広い壁の前まで行くと、彼は肩から手を放し、あろうことかのけぞって大笑いを始めた。

 何ごとだろうと思いつつ、彼女は怒鳴り声を彼にあびせた。

「何がおかしいんですか!風呂に入ってないことが、そんなにいけないんですか!」

 彼の笑いは止まらない。

 さすがに堪忍袋の緒が切れかかって、西川は行ってしまおうとする。それを察して彼は笑いを止め、明るく話す。

「そんなことが気になっていたんですか。それで、小さくなって距離を置いてたんですね。僕らなんか、納期前は二日くらい入りませんよ。ひどい時は半月ほど、会社から一歩も出ません。さすがに女性は帰宅させていますが、男のねぐらはもう、獣の巣さながらです。それに比べたら一日二日、どうということはないです」

 西川はなぐさめられているのか、仕事を持つ男特有の自慢話を聞かされているのかわからなかったが、とりあえず体臭で彼に嫌われることはないだろう、と安心し、笑みを浮かべた。

 それから二人は先日行ったファミレスに入り、冷房の効いた一角に陣取って、八時過ぎまで熱く語り通した。当然、本の話ばかりだ。

 帰り道、竹本のとなりに西川はいなかった。

 しかし彼女の表面から、防御用のベールが一枚はがれた、彼はそんな気がした。


           本を読む恋人たち その3へ続く