フッ素Q&A

1.フッ素全般について

(Ql)フッ素とはどのようなものですか?
(Al)フッ素は自然の中に広く分布している元素の1つです。地殻にある約90の元素中多いほうから13番目に豊富に含まれています。
 フッ素は元素単独では存在せず、フッ化物として蛍石、水晶石、リン鉱石、などに多く存在します。地中はもとより海水、河川水、植物動物などすべてに微量ながら含まれており、私たちが食べたり飲んだりするものの中にも、量は異なるものの、必ずといってもいいほど含まれています。またフッ素は私たちの日常生活のなかでも工業製品の一部としてさまざまな形で役に立っています。これらの工業製品の一部としての物質はフッ素を含んだ有機化合物でありむし歯予防に用いられるフッ化ナトリウムなどの無機のフッ素化合物とは全く性質が異なります。

表1 食品のフッ素量

フッ素含有物質
地中

紅茶
緑茶
ビール
砂糖

みそ
ミカン
リンゴ
ニンジン
大根

エビ
いわし

海草
清涼飲料水
ミネラルウォーター類
 

  フッ素含有量(ppm)
  280
    1.3
    0.5〜1.0
    0.1〜0.7
    0.8
    1.7〜5.6
   25.9
    0.9〜11.7
    0.1〜0.3
    0.2〜0.8
    0.5
    0.7〜1.9
    2
    4.9
    8〜19.2
    1.5〜1.7
    2.3〜14.3
    0.8以下
    2以下
 
 
(Q2)フッ素によるむし歯予防はいつごろから始まったのですか?
(A2)私たちが使っている飲料水のなかにも、微量ながらフッ素が含まれていますが、天然に適量(約1ppm)のフッ素を含んだ水を飲料水として使っていた人々に、むし歯が少なかったという事実の発見からフッ素によるむし歯予防が始まりました。今世紀始め頃、アメリカで同じ水源の水を飲んでいる地域の人々に集団的に発生する斑状歯(歯牙フッ素症)が発見されました。その原因は、飲料水中に過量に含まれるフッ素のためでした。同時にこれらの地域では、他の地域に比べてむし歯が少ないという事実も発見されました。その後広範囲な調査で適量のフッ素が飲料水中に含まれている場合斑状歯(歯牙フッ素症)の発生もなく、かつ高いむし歯予防効果が得られていることが分かりました。適量のフッ素を含んでいる飲料水を飲んでいる地域の住人の健康状態をあらゆる角度から検討したところ、異常はみとめられませんでした。つまり、適量のフッ素は、人体になんら悪影響を及ぼすことなく、むし歯予防にとって 極めて有効に働くことが確認されたのです。
(Q3)フッ素はどうしてむし歯予防に有効なのですか?
(A3)フッ素がむし歯予防に有効な理由として、次のような働きがあるからです。
@歯の構造を強くする。(歯質の改善)
 フッ素が歯の一番表層のエナメル質に作用し、エナメル質の結晶構造を改善します。エナメル質の構造は、ハイドロキシアパタイトという結晶構造でできています。この結晶は、むし歯菌が産出する酸に対して脆く、溶けてしまいます(脱灰)。
 フッ素が作用すると、ハイドロキシアパタイトがフルオロアパタイトという、極めて酸に対して溶けにくい結晶構造となり、歯の表面が丈夫になります。
A歯の表面を修復する。(再石灰化)
 むし歯になりかかった(カルシウムが溶けだすこと)エナメル質に作用し、その部分に再びカルシウム等が沈着して歯の表面を修復します(再石灰化)。この修復はフッ素が歯の表面にたくさんあると(歯の表面の濃度が高くなると)唾液中のカルシウム等を取り込む作用が働き、再石灰化が進行します。また、再石灰化が進行するので脱灰するのが抑制されます。
Bその他のフッ素のはたらき
 フッ素は歯質を強くしたり、修復したりする作用以外にもむし歯菌の酸を産出するのを抑制したり、歯垢(細菌の塊)の形成を抑制する働きがあります。
 
(Q4)自然のフッ素とむし歯予防に使うフッ素は同じですか?また、工業用のフッ素とどこがちがうのですか?
(A4)むし歯予防のフッ素には、普通フッ化ナトリウム(NaF)が使われます。これは水に溶けるとイオン化して存在します。このフッ化ナトリウムは、蛍石から精製されています。お茶等に含まれているフッ素も、フッ素イオンとして存在し、性質は全く同じものです。また、工業用のフッ素としては、フッ化水素(HF)という強い酸性をもった化合物があります。このフッ素は他の物質等と強い反応をします。
 このように、フッ素でも違った種類の化合物なのでその性質は全く違うものとなります。したがって、むし歯予防に使用するフッ素は、自然界で存在しているフッ素と同じで、工業用のフッ素とは、全く別物です。
 
(Q5)フッ素は必須栄養素ですか?
(A5)適量のフッ素は、むし歯に対する抵抗性のある歯をつくるとともに、正常の骨格を維持するために必要とされています。世界保健機講(WHO)や食糧農業機関(FAO)、アメリカ合衆国食品医薬品局(FDA)など多くの専門機関では、フッ素を身体に欠かすことのできない必須栄養素であるとしています。また、アメリカ合衆国全国科学委員会は、フッ素の1日所要量を成人で3mgとしています。
 
         表2 日本人の一日フッ素摂取量
       (飯塚喜一、岡田昭五郎:弗化物とその応用、医歯薬出版より)

報告者

 フッ素摂取量(mg/day)

 備考

飯塚
 

食品から 0・4〜1・8
水・茶から 0.08〜0.94  計0.48〜2.64

成人
水はF 0.05〜0・2ppmとして

鮫島
 

食品から  0.7〜1.8
水・茶から 0.6〜1.4   計1.3〜2.8

年齢12歳
水はF 0.033〜0.44ppmとして

斎藤

 

食品から  0.6〜2.7
水・茶から 0.7〜0.9   計1.5〜2.1
 

成人男子
水はF 0.07〜0.13ppmとして
 
 
(Q6)フッ素は、身体にどのように摂り入れられ、また、どのように利用されるのでしょうか?
(A6)飲食物から摂取したフッ素は、体の中に入ると胃や腸(主に胃)から吸収されます。その大部分(子どもでも吸収された内の60〜90%、成人で約90%)は、そのまま腎臓から膀胱に移行し、24時間以内に尿の中に排泄され体外へ出ます。一方、排泄されなかったフッ素はさまざまな臓器、器官で利用されますが、主にフッ素の必要性の高い骨、歯などの硬組織に蓄えられます。成長期の子どもは代謝が著しいので、成人よりもフッ素を蓄える割合が多くなっています。しかし、一度蓄えられたフッ素は、永久にとまっているわけではなく、再び代謝され移動・排泄されます。なお、水に溶けているフッ素はほとんど吸収されますが、小魚などの固形物に含まれているフッ素の吸収はかなり悪く、吸収されない部分は糞の中に排泄されます。
 
2.フッ素を利用したむし歯予防について
(Q7)フッ素によるむし歯予防にはどんな方法があり、どのように分類できますか?
(A7)フッ素によるむし歯予防の方法は数多くありますが、広く普及し代表的なものと言えば水道水のフッ素化、フッ素洗口、フッ素塗布、フッ素入り歯磨剤などがあげられます。応用方法としては、歯が顎の骨の中でつくられている時期に用いる全身応用法と歯が生えてきたときに歯に直接作用させる局所応用法とがあります。実施方法としては、みんなで行う予防方法(公衆衛生的予防方法)と個人で行う予防方法(個人衛生的予防方法)があります。

利用方法

    種類

予防効果

フッ素濃度

 

公衆衛生的予防法
みんなで行う予防方法


 


水道水フッ素化


 


50%〜70%


 


0.8ppm


 

飲み水と共に摂取されたフッ素は、歯の栄養となり強い歯を作ります。安全性、効果、経済性に優れ、乳歯も永久歯もどちらも予防することができます。


フッ素洗口
 

40%〜60%(ただし永久歯)

225ppm〜900ppm
 

主に幼稚園・保育所や学校で行われ、安全性、効果、経済性にすぐれた永久歯の予防に適しています。

個人衛生的予防法

個人で行う予防方法


 

フッ素塗布
 

10%〜40%
 

9000ppm
 

歯科医院、保健所、市町村等で行われています。

フッ素入り歯磨剤

 

15%〜30%

 

1000ppm

 

各家庭でフッ素入り歯磨剤を利用してむし歯予防をします。
 
 
(Q8)フッ素を使ってもむし歯になる。それなら、使わなくても良いのではないですか?
(A8)確かに、フッ素洗口では、40%〜60%のむし歯予防効果であり、100%むし歯予防をすることができません。だからといって、放置するとむし歯になる危険性が大きくなります。う蝕が蔓延している状況を考慮すると、安全で、簡便で、経済的にむし歯予防ができるフッ素を利用してむし歯になる危険性を少しでも減らす努力を考えた方が合理的です。また、口腔衛生の改善や甘味制限等他のむし歯予防と併用して、100%のむし歯予防を目指して努力していく必要があります。また、むし歯になった後のことについて考えてみましょう。むし歯を治療して、むし歯の部分を金属やプラスチックで詰めたりしますが、その部分は元の健全な歯より弱いので、詰めたところから再びむし歯になる可能性があります。ですから、少しでもむし歯にならないように予防する必要があります。現在、むし歯予防で安全性、利便性、経済性、効果で最も有効であるのはフッ素の利用です。(特にフッ素洗口)
 
 表3.各種むし歯予防の比較表

     方法

 安全性

 難易度

 経済性

 効果

総合判定

フッ素予防





 

フッ素洗口

  ◎

  ○

  ○

  ◎

  ◎

フッ素塗布

  ◎

  △

  ×

  ○

  ○

フッ素入り歯磨剤

  ◎

  ○

  ○

  ○

  ○

水道水のフッ素化

  ◎

  ×

  △

  ◎

  △

その他(錠剤等)

  ◎

  ×

  △

  ○

  △

歯みがき(ブラッシングのみ)

  ◎

  △

  ○

  ×

  ×

甘味制限

  ◎

  ×

  △

  △

  ×

フィッシャーシーラント
 

  ◎
 

  ×
 

  ×
 

  ◎
 

  △
 
 
各項目について
・安全性:安全◎、特に問題なし△、危険×
・難易度:易しい○、やや困難△、困難×
・経済性:安価○、やや高価△、高価×
・効果:大きな効果◎、効果あり○、やや効果あり△、効果なし×
総合判定:かなり有効である◎、有効である○、やや有効である△、あまり有効でない×
 
安全性:各機関の認定による安全性       効果:むし歯予防の効果
難易度:現実的な行動、実施に対しての難易度  総合判定:各項目の総合評価
経済性:各自の手間やコスト
 
(Q9)むし歯予防で、フッ素を利用する方法と他の方法とどのような効果の違いがありますか?
(A9)むし歯予防には次の方法があります。
@フッ素の利用(フッ素の効果については第1章及びQ3.Q7を参照)
 フッ素洗口
 フッ素入り歯磨剤
         ・・・・・・・・家庭や学校、職場で簡単にできます
 
 フッ素塗布・・・・・・・・・・・歯科医院・市町村等でできます
 
 水道水のフッ素化
 
 その他(錠剤、塩等にフッ素を添加)
         ・・・・・・・・現在、日本では実施していません
 
A甘味制限
 規則正しいおやつ等の時間やむし歯になりにくい甘味料の使用等でむし歯予防する。
B 口腔衛生の改善
 歯みがき等で口の中の汚れを清掃してむし歯予防する。
Cフィッシャーシーラント
 歯科医院でむし歯になりやすい奥歯や前歯の溝にセメントやプラスチックを入れてむし歯予防をする。
 
以上のようなむし歯予防がありますが、Aについては確実に実行するのは現実的ではありません。(甘いのもをある程度コントロールできても、むし歯予防効果を挙げるのにはかなりの努力が必要です。)Bについては、昔から「歯みがきをするとむし歯にならない」といわれていますが、実際は歯みがきだけではむし歯は減っていないのです。口の中を清掃して歯肉炎の予防には大変効果的ですが、むし歯予防のためにはあまり効果は期待できません。なぜなら、むし歯になりやすい奥歯の溝の大きさは歯ブラシの毛1本の太さより小さいので、溝の中の汚れを掃き出すことができないからです。Cについては、むし歯予防の効果はかなり大きいのですが、歯科医院で個人的な予防処置なので費用等の負担も大きくなります。このように、さまざまな条件を考えると、むし歯を予防するのに現実的で、安全性、簡便さ、経済性、効果等を考慮するとフッ素の利用(特にフッ素洗口)がむし歯予防に最も有効と考えられます。また、他の方法を併用することにより、むし歯の予防効果も一層高まります。
 
(Q10)歯みがきや甘味制限等の基本となる努力をしないで薬であるフッ素に安易に頼るのは正しいむし歯予防とは言えないと思いますが、どうでしょうか?
(A10)Q9で述べたようにむし歯予防法はフッ素のほかにもあります。ただし、単一の方法で100%むし歯予防ができることはありません。したがって各種の方法を組み合わせて、できるだけむし歯予防の効果をあげる必要があります。現在、むし歯予防ではフッ素の利用が最も効果的であると考えられています。また、科学的にも実証されています。したがって正しいむし歯予防とは、効果ある予防法を積極的に取り入れて、自分で選択することではないでしょうか。
 
(Qll)フッ素を利用する年齢は?
(All)フッ素利用は、生涯を通じて行うことが必要です。特にむし歯になりやすい時期は、歯が生え始めてから2〜3年の間ですので、乳歯や永久歯が次々に生えてくる、1歳の誕生日から中学生位までが最もむし歯になりやすい時期といえます。またこの時期に限らず生涯にわたってフッ素を積極的に利用すれば、むし歯は効果的に予防されますので、一生自分の歯で食べるという目的に大きく貢献するものと考えられます。
3.フッ素の安全性について
(Q12)フッ素を摂り過ぎた場合どんな害がありますか?
(A12)どんなに安全と思われている物質でも量が過ぎれば害を生じます。フッ素も同様で、適量では身体の栄養、むし歯予防に役立ちます。過量に摂取すると害(中毒)を生じます。このフッ素の有害作用は、次の3つに分けられます。
@慢性中毒
 長年飲料水等により過量のフッ素を摂取したとき生じるもので斑状歯(歯牙フッ素症)と骨硬化症の2つがあります。斑状歯(歯牙フッ素症)となるのは適量の2〜3倍以上の量のフッ素を顎の骨の中で歯がつくられている時期に継続して摂取した場合です。
 骨硬化症は、適量の10倍以上のフッ素を数十年摂取し続けた場合に起こる場合があります。
A急性中毒
 一度に大量のフッ素を摂取したときに生じるもので、吐き気、嘔吐、腹部不快感などの症状を示します。フッ素の急性中毒量は、体重1kgあたりフッ素の量2mgです。例えば、体重20kgの子供が40mgのフッ素を一度に摂取することで生じます。通常むし歯予防に利用するフッ素(フッ素洗口、フッ素塗布、フッ素入り歯磨剤)では、適量を使用している限り中毒を起こすことはありません。
(Q13)フッ素洗口液を誤って飲んでも大丈夫ですか?
(A13)結論から言ってもQ12で述べたとおり大丈夫です。フッ素洗口のうち、最もフッ素濃度の高い週1回法(フッ素濃度900ppm)について考えてみると、洗口液10ml全量を誤って飲み込んだ場合、9mg(900 μg/ml×10ml)のフッ素を体内に摂取したことになります。この場合、軽度な中毒による不快症状(悪心、嘔吐、口渇、発汗などで、主に胃の刺激症状)が発現するフッ素量は、体重1kgあたり2mgとされているので、洗口可能な4歳児の平均体重が我が国ではおよそ16.5kg(平成元年国民栄養調査)であることから、4歳児の急性中毒量は33mg(2mg/kg×16.5kg)となり、1回量を誤って飲んでも問題ありません
 
(Q14)フッ素は劇薬であると聞きましたが、使用しても問題ありませんか?
(A14)この劇薬という意味は、薬事法で該当する薬品を示します。むし歯予防に用いられるフッ素化合物にはいろいろなものがありますが、主にフッ化ナトリウムが多く用いられています。このフッ化ナトリウムの粉末そのものは、薬事法上劇薬に該当しますが、処方通りに溶解して、その濃度がフッ素として1%(10,000ppm)以下のものは普通薬として扱われます。したがって、家庭や学校・幼稚園で専門家以外の人が取り扱っても、なんら問題はありません。ただし、その溶液の作製や保管に関しては十分に注意する必要があることは、言うまでもありません。
 
(Q15)フッ素は骨に蓄積して障害をもたらしませんか?また、他の組織に対してはどうですか?
(A15)Q6で説明したように、フッ素は骨や形成途上の歯に多く取り込まれます。適量な場合は障害をもたらすことはなく、有益な作用しか示しませんが、過剰になると歯に対しては斑状歯(歯牙フッ素症)、骨に対しては骨硬化症という病気を引き起こすことがあります。(Q6、Q12を参照)。しかし、むし歯予防に使用しているフッ素については、前述しているようにこれからの障害が発生しない量に調節しているので心配ありません。また、むし歯予防に用いる量のフッ素で障害が出たという根拠ある報告は今までありません。
 
(Q16)フッ素塗布で歯が黄色くなったり、黒く変色すると聞いたことがありますが本当ですか?
(A16)フッ素塗布によって歯が黄色くなったり、黒く変色することはありません。歯が黄色や褐色になるのは単なる汚れや飲食物による着色が多いようです。また、フッ素を塗って黒く変色するのは、サホライド(フッ化ジアミン銀)というむし歯の進行を抑制する薬剤を塗布したためと考えられます。黒く変色するのは、この薬剤に含まれる硝酸銀が、むし歯になった部分や歯の表面の微小な凹凸部に作用してタンパク質と結合するためです。(つまり、歯を黒く変色させたのではなく、色が付いたようなもの。)しばしば、市町村保健所・歯科医院などでは、初期のむし歯にサホライド(フッ化ジアミン銀)を塗布し、その後数時間たって塗布した面を黒変させるためにフッ素で黒くなると誤解されることがあるのです。
 
(Q17)フッ素塗布後、唾液は飲み込んでも大丈夫ですか?
(A17)フッ素塗布は年に2〜4回実施します。したがって、フッ素の過剰な量を摂取していることはありません。また、フッ素塗布に用いる薬剤は、塗布する準備段階で、すべて飲み込んでも急性症状を発現しない安全な量に調整されています。実際は、歯ブラシに残ったり、塗布後の過剰ゲルをふき取るなどしても、使用量の約25%程度のフッ素が口に残ります。これは、急性症状の発現量に比べ、十分に安全な量であるため、唾液を飲み込んでも全く問題はありません。
 
(Q18)子供の歯に白い斑点がみられますが、フッ素と関係ないでしょうか?
(A18)歯の形成期に長期間にわたり適量のフッ素を摂取し続けると斑状歯(歯牙フッ素症)が現れること、また、フッ素以外の原因でも斑状歯と同じような症状が現れることはすでに述べたとおりです。フッ素による白斑は、Q12で述べたとおりです。むし歯予防に使用するフッ素では、正しく行っている限り、白斑が生じる心配はありません。フッ素以外の白斑には様々なものがありますが、このうち特に多いのが「むし歯」です。むし歯のなりはじめには、歯の表面のカルシウムが溶けだし歯に白い斑点やしま模様が生じます。しかし、この状態から全部がむし歯に進むとは限りません。原因となる歯垢(歯の汚れ)を適切な歯みがきで除去したり、フッ素の応用により白斑が元通りになることは、臨床上よくみられることです。したがって、フッ素は歯の白斑を生じさせるというよりも、むしろ白斑を治す作用を有しているということがいえます。
 
(Q19)フッ素洗口液やフッ素塗布液で歯が侵されたり歯が脆くなるということはありませんか?
(A19)フッ素洗口やフッ素塗布に使われるフッ化ナトリウムは、科学的に安定した物質であり、その溶液で歯が侵されることはありません。一方、工業用に用いるフッ化水素などのように極めて強い酸で、ガラスを溶かす性質のあるものもあります。このように、同じフッ素でも結びつくものによって性質がまったくことなるのはQ4で述べたとおりです。また「フッ素は歯を強くする」という言葉が、往々にして「歯が固くなって強くなる」と受け取られ、このため「歯がもろくならないか?」、「折れやすくならないか?」などの疑問がでてくるようです。しかし、フッ素は細菌の産生する酸に対して抵抗力のある歯質を作るのであって、フッ素洗口、フッ素塗布、フッ素入り歯磨剤などにより歯がもろくなる、折れやすくなる、あるいは治療を受けたとき欠けやすくなるといったことはありません
 
(Q20)病気によっては、フッ素洗口やフッ素塗布を行ってはいけないものがありますか?
(A20)むし歯予防に使用するフッ素に関しては、Q12〜Q19までに述べているとおり適量のフッ素を使用している限り、身体に影響が現れることはありません。フッ素洗口やフッ素塗布等のフッ素応用法は、安全性の確立した方法ですから、すべての人々が利用できます。また身体の弱い子供や障害者が、特にフッ素の影響を受けやすいという事実もなく、むし歯になりやすい場合が多いので、積極的にフッ素を利用したむし歯予防が望まれます。
 
(Q21)フッ素はガンの原因になると聞きましたが、どうなのでしょうか?
(A21)以前、外国のある学者から「水道水にフッ素が添加されている地域ではガンによる死亡率が高い」という報告がなされたことがありましたが、その後の調査でフッ素とガンの因果関係は否定されました。また、フッ素が実験用動物でガンを引き起こしたという報告もありましたが、その後再検討された結果、問題がないことが明らかになりました。したがって、フッ素とガンとの因果関係を示す根拠が無く、フッ素がガンの原因になることはありません。
※補足
 フッ素とガンとの調査を行うとき、ガンになりうるほかの因子(人種構成、地理的条件、社会経済状態、年齢、性差等)を考慮しないで、比較されていました。これらの因子を考慮に入れると、ガンの死亡率の差は、それぞれの母集団の年齢と人種差に起因していました。また、この研究内容を再検討した結果、指導的な立場にある機関(米国国立ガン研究所、その他各医学機関・科学機関)ではフッ素がガンを引き起こすという主張を否定しています。
 
(Q22)水道水のフッ素添加は、エイズの原因になるのでしょうか?
(A22)結論から言ってフッ素とエイズとは全く関係ありません。エイズは、同性間あるいは異性間での性行為、血液・血液製剤での感染、薬物使用者によよって汚染された注射器の共用、エイズに感染した母親から胎児や新生児への周産期感染といった感染経路が確認されていて、エイズウイルスによる感染であるという決定的な証拠があります。また、フッ素がエイズの発症や感染の原因あるいは補助因子となるという主張は、科学的に立証されておらず、疫学的な研究に基づけばフッ素とエイズの関係を根拠づけるものはありません。
 
(Q23)フッ素は遺伝的な危険性がありますか?
(A23)至適濃度のフッ素が染色体(人の遺伝子)の構造を変えることはありません。動物実験においても至適なフッ素濃度の100倍も高いフッ素レベルですら、骨髄や精細胞の染色体異常を認めていません。わかりやすくいえば、フッ素が遺伝的障害を与えることはありません。
 
(Q24)フッ素は、ダウン症候群の子供の出生率を増加させますか?
(A24)ある雑誌で、「飲料水中のフッ化物とダウン症候群との関係がある」と発表がありました。これには統計処理と研究計画に重大な欠点があり、科学的に否定されています。また、他の研究でもダウン症候群と関係があるという根拠はありません。したがって、ダウン症候群とフッ素添加との関係はありません。
 
(Q25)水道水フッ素添加は、アルツハイマー病の原因になりますか?
(A25)アルツハイマー病の正確な原因は知られていません。いくつかの学説が研究途上にありますが、現在までに立証されたものはありません。湯を沸かすのに調理器具が使われるときフッ素添加水がアルミニウムを溶出させるめ、フッ素がアルツハイマー病進行の共通要因として、関係してくるという主張がなされてきました。米国の大学(ヴァージニア大学)の実験でフッ素の存在の有無という最も相対する条件の下で、アルミニウム製の調理器具からアルミニウムの溶出量を測定しようとしましたが、極端な酸性あるいはアルカリ性の条件下でも、どんな調理器具からも有意なアルミニウム量が溶出することはありませんでした。
 
(Q26)フッ素添加は心臓病の原因あるいはその一因となりますか?
(A26)結論から述べると、心順病や他の原因の死亡が、推薦量のフッ素を含有する飲料水と関連する事はありません。米国の国立心臓、血管、肺研究所によると最終レポートで「フッ素添加都市と非添加都市に居住する住民の健康比較調査から、また、生涯にわたり天然のフッ素暴露を受けた人や産業活動による高度の暴露を受けた人の健康診断と病理診断から、またフッ素添加についての幅広い国家的な経験から、これらすべてに一致した所見はフッ素洗口は心臓血管の健康に悪い影響を示さない」と結論づけています。
 
(Q27)飲料水中のフッ素はアレルギー反応を引き起こすことがありますか?
(A27)米国アレルギー学会では、フッ素によって起こりうるアレルギー反応についての臨床報告を再検討して、「水道水フッ化物添加で用いられるフッ素でアレルギーや不耐性を起こすことはない」と述べていま丸またWHOも報告されているアレルギー反応は「無関係な状況」に該当するとして、フッ素によるアレルギー反応の証拠はないとしていま丸したがって、管理されたむし歯予防に利用されるフッ素がアレルギー反応を引き起こすことはありません。最近、フッ素が人の健康に対して有害であるというフッ化物添加反対論者による申し立てに答えて、米国口腔衛生研究所は、「フッ化物添加反対論者のパンフレットにおける科学文献の誤用」を公表しました。その中で著者は、フッ化物添加反対論者によって作られた、最適のフッ化物添加飲料水の飲用による有害な影響についての申し立てに関する230以上の主張に対し論及、論破しています。
 
(Q28)妊娠中の母親がフッ素を摂取しても胎児に悪影響はありませんか?また、授乳中の母親の母乳に対してはどうでしょうか?
(A28)水道水フッ素添加がなされている地域でも胎児に対する悪影響は報告されていませんまた、死産や新生児の死亡率が増えるという報告もありません。仮に母親が誤って大量のフッ素を飲み込んだとしても、血液や胎盤を経由するうちに胎児に移行するフッ素はごく少量になってしまいます。それが証拠に胎児期に歯の形成が行われている乳歯にはフッ素を原因とする斑状歯(歯牙フッ素症)がほとんどみられません。永久歯の形成は生後まもなく始まりますから、赤ちゃんにとって母乳中のフッ素も重要です。しかし、母親が摂取するフッ素のほんの僅かしか母乳に移行しませんから、乳児に害を及ぼすことはありません。むしろ母乳保育中の乳児は、フッ素が不足しがちであるといえます。
 
(Q29)水道水へのフッ素添加は「純粋な水」の品質に影響を及ぼしますか?
(A29)水道水には、周囲の土壌や岩から溶出する多くの物質が種々量で含まれてます。これらの物質の中にフッ素もあり、それは歯の健康に必要とされている至適濃度以下であったり以上であったりします。水道水では、フッ素を実益性や健康増進のために至適濃度を管理して飲料水に添加されます。
 したがって、水道水の品質に影響を及ぼすことはありません。
 
(Q30)フッ素添加水は、魚や他の生物に悪影響を与えませんか?
(A30)むし歯予防のために水道水に添加されるフッ素濃度は、1.0ppm前後に調節されています。その点海水には、もともと1.3ppm前後のフッ素が含まれていますから、海水魚に関しては全く心配ありません。金魚などの淡水魚もフッ素添加された水の中で健康に生息することが確認されています。農産物や家畜に対してもフッ素添加水の悪影響は認められません。
 
(Q31)宝塚や西宮ではどうして、斑状歯(歯牙フッ素症)が起きたのでしょうか。
(A31)1970年に社会問題化した宝塚や西宮の斑状歯(歯牙フッ素症)はフッ素洗口によるものではなく、天然に含まれた飲料水中の適量のフッ素が原因で起きたものです。宝塚市、西宮市のある六甲山系は、地質に多くのフッ素が含まれていました(高濃度地区は2.7ppmと推定されています)。この天然水中のフッ素濃度が高いという事実を知らずに、この水を水道水として長期間にわたり使用し続けたため、子供たちの歯に斑状歯(歯牙フッ素症)が発生してしまったのです。天然水中のフッ素も多すぎれば、減らすようにコントロールすることが必要です。
 
4.その他
(Q32)日本では諸外国に比べ、多くのフッ素を摂取しているのでしょうか?
(A32)海産物にフッ素が多いことから、海産物を多く食べる日本人は、諸外国に比べフッ素を多く摂取していると考えられがちです。たしかに、日本では海産物の消費量が多く、これから摂取するフッ素も諸外国より多くなっています。しかし、一方で、肉の消費量についてみてみると、日本は諸外国に比べて少なく、肉から摂取するフッ素量は諸外国に比べて少なくなっています。このように、食品全部からのフッ素摂取量を計算してみると、日本も諸外国と差がありません。したがって、日本人がとくにフッ素を多く摂取しているわけではありません。(Qlを参照)
 
(Q33)フッ素洗口液を捨てることで、学校周辺に心配はありませんか?
(A33)ある物質が、環境汚染物質として問題にされるのは、それが何かの理由で自然界に放出されたとき、それまで自然に含まれていた量が大きく変化する場合や、今まで自然界になかったものが人工的に放出されたために、生態系がなんらかの影響を受ける場合です。例を挙げると、比較的フッ素含有量の少ない新潟県の信濃川の場合でも自然の状態で1日5.5トンのフッ素を海へ流し出ています。一方、新潟市の全小学校(60校)がフッ素洗口を実施した場合でも、1日当たりフッ素の使用量は100gしかありません。この2つの量を比較すると、フッ素洗口法がいかにこの問題と関係ないかが分かると思います。また、実際にフッ素洗口を実施している小学校と中学校の総排水口のフッ素濃度を測定してみると、これは給食や掃除などで使用する大量の水で希釈され、最高でも0.2ppm程度でした。ちなみに水質汚濁防止法では、下水中フッ素濃度を、一般の排水では15ppmを限度としています。
 
(Q34)フッ素添加は環境汚染につながるのですか?
(A34)フッ素洗口による環境への影響については、Q33で述べたとおり水質汚濁となることはありません。また、フッ素添加された水道水では、その水を飲用に適さなくすることはないので、フッ素添加された水が環境を汚染することはありません。また汚水処理プラントから流出する排水が、河川のフッ化物量を明らかに変化させることはありません。
 
(Q35)なぜ何年経ってもフッ素の反対論があるのですか?
(A35)むし歯予防のためのフッ素の利用については、残念ながらまだ社会常識となっておらず、安全性に対して誤った情報や不安から反対しているようです。むし歯予防の重要性に対する関心が低いためフッ素によるむし歯予防も新しいこととして受け取られています。同じように既に論破されたフッ素の反対論をあたかも新鮮な事項として捉えまたは固執することによりフッ素の安全性を否定することが多いようです。フッ素反対論者もいったんフッ素の応用が始まり実績が上がると影をひそめる傾向が強いようです。このことからフッ素によるむし歯予防が大多数の地域に普及していくのに伴い、反対論は自然に消滅していくものと考えられます。つまり、あやふやな論や誤った情報に惑わされず、正確な判断をしていくことが大切です。
 
(Q36)フッ素利用の反対論は学問的に見るとどんな誤りがあるのでしょうか?
(A36)フッ素利用の反対論には学問的にみると次のような誤りがあります。
   @不正確な調査や実験を論拠にする。
   A過去に否定された事柄を再三持ち出す。(無理やり賛否両論があるような状況を作る)
   B量的な考えを無視して議論する。
   C安全性の根拠になっているデータの一部を取り出し、危険性があるようにいう。
   D因果関係を無視してガン、遺伝、毒性、中毒など一般の恐怖心を煽るような言葉を多用する。
   E薬害、公害などを引き合いに話題にし、フッ素も同じであるかのようなイメージを作り出す。
   F学問的に無意味な「絶対安全」を議論する。
 
(Q37)フッ素利用について賛否両論があるうちは「疑わしきは使用せず」の原則で実施を当面見合わすべきではないでしょうか?
(A37)「疑わしきは使用せずという言葉には何となく説得力を感じますが、実はこの言葉は刑事訴訟法336条にある「疑わしきは罰せず」という原則を転用したものです。「疑わしきは罰せず」という原則は、人の罪を裁くという人間生活の中でも、最も厳格性が必要とされる判断において適用されるべきもので、これを「疑わしきは使用せず」と転用し日常生活に適用することは、そもそも無理があります。例を挙げますと、現代の社会では車に乗れば事故が生じる可能性はゼロとはいえません。歩いていても車にぶつかる可能性もあります。「疑わしきは使用せず」を日常生活にそのまま適用すると、車に乗ることばかりか歩くこともできなくなってしまいます。日常生活において、「疑わしきは使用せず」を現実的に使用する際には、定性的な判断ではなく定量的な判断が必要となります。むし歯予防のためのフッ素利用について考えますと、確かに、フッ素利用は使用量を誤れば人体に対する毒性を有しており定性的な意味では毒物ですが、適正な利用で使用している限り、その安全性については国の内外の専門機関・団体が一致して認めているところです。
 もちろん適正な使い方をすれば、安全でう蝕予防効果があることについて賛否両論などありません。すなわち、フッ素利用の安全性には疑わしいところはありませんので、「疑わしきは使用せず」の原則には全く当てはまらないということができます。
 
(Q38)フッ素洗口によって、もし有害作用が起きた場合の責任は、誰が負うのでしょうか?
(A38)フッ素洗口の安全性は十分確立されており、仮に洗口液を全部飲み込んでしまっても安全なように処方されています。正しい手順で実施されていて、万が一有害作用が起こった場合(全くあり得ないことです)は、他の一般的な公衆衛生事業と同様実施主体(県や市町村)等それぞれの立場に応じた責任が生じてくることは当然です。

(佐賀県厚生部健康増進課資料より)

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