第1195回 不安の中で生きる

 平成27年 12月24日〜

 物質的に恵まれない時代を生きた人々から見れば、現在の日本は信じられないほど
物が溢れ返り、便利な世の中になりました。
医療や栄養の進歩で、平均寿命も長くなっています。

 にもかかわらず、現代人は、物質的に恵まれない時代を生きた人々が経験したことのない、
なんともいえない息苦しさを感じて生きています。
便利になればなるほど、物が豊かになればなるほど、長生きになればなるほど、
私たちの不安は取り除かれるどころか、ますます大きくなっているのです。

 老後が不安でしょうがない。仕事がうまくいくだろうか不安でしょうがない。
さらには、みながしているのと同じことをしていないと不安でしょうがない。
現代人はこうした漠然とした不安をかかえながら、生きています。
物質的な豊かさの中の不安と言ってよいでしょう。

 一方で、この漠とした不安をなんとか解消しようと必死に努力して生きているのも
現代人です。その努力は多とするとしても、根本的な解消の出口が見つからないまま
追い詰められているように思えてなりません。
なぜなら、残念ながら、根本的な解決策はないからです。


 「もっと裕福な暮らしかしたい」「もっと便利さを享受したい」「もっと
長生きしたい」と、欲望がいくらでも膨らんでいくのが人間の基本的な姿である以上、
ふつうの生き方をしているかぎり、不安はついてまわります。


 もう少しこころ安らかに生きたいと願うのなら、不安を解消しようと出口のない
ところで努力するよりは、世の中とはこういうものだと不安を受け入れるしかありません。

 そのうえで、目の前に起こる一つひとつの出来事に、一喜一憂せざるをえないとしても、
自分の人生そのものを賭けてしまわないことです。
そして、いのちのつながりというもっと広い別の世界があることに目を向けることです。
動物も植物もそのつながりの中で精いっぱい生きています。


 人間もまた同じように、自然のつながりに支えられて、いのちに恵まれているのだと
気がつけば、たとえ目の前のことがうまくいかなかつた場合でも、不安をかかえながらも
穏やかなこころで生きていけるのではないでしょうか。

 不安だからといって、その場かぎりの解決で取り繕い、ごまかすだけでは、
こころ穏やかな人生を送れません。
不安を不安として受け入れて、じっと辛抱する。
たとえ困ったときに逃げていく人がいたとしても、絶望するのではなく、まわりを
よく見渡せば、あなたの支えになってくれる存在がきっと現れます。


           株式会社PHP研究所発行 「人生は価値ある一瞬」より


         


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