第1194回 老いも尊い

 平成27年 12月 17日〜

 お釈迦さまがまだ出家する前で、インドのある小国の王子さまだったころの話です。

城の門を出たときに出会った老人が、老衰するほかの老人を見て、自分もああなるのかと
考え込んでは悩み、恥じ、嫌悪している姿を目にします。

お釈迦さまは、自分もまた老いゆく身であり、老いるのを免れえないのに、
他人の老衰を見て同じように悩み、恥じ、嫌悪するであろうと考え、
「老い」を人間なら誰もが持つ根本的な四つの苦しみ(四苦/生苦・老苦・病苦・死苦)の
一つに挙げられました。


 確かに年を取ると、体力や記憶力の衰えが目立ち、今までできていたことが
だんだんとできなくなっていくもどかしさがあります。
しかし老いることは、何もマイナスばかりではありません。プラス面もあります。

 一つめは、大事なものを一つひとつ捨てていくことで、世の中に対して背負っていた
荷物がそれだけ軽くなっていく点です。
私も、古希を前に門主の座を譲って引退したあと、忙しさこそあまり変わらないものの、
背負っていた荷物の多くを下ろした感じがして、気持ちが軽くなったのを覚えています。

 二つめは、年を取ることによって社会や会社の組織から離れ、自由が得られることです。
朝、何時に起きなければならないなど生活時間を守らなくてもよくなります。

時間だけでなく、成果や数字などによって評価されることからも解放され、組織に縛られる
不自由さがなくなるため、自己を見つめることができるようになります。

 三つめは、いのちについて身近に意識するようになることです。
親、祖父母、親しい友だちなどが先に逝き、今は一応健康だけれども、遠からず死ぬだろう
ということは嫌でも考えさせられます。

私のいのちはどこから伝わってきたのか、死んだらどうなるのかなどを意識すると、
若いときには思いもしなかった先祖のことを考えたり、いのちの有限性やつながりをも
感じるようになります。

 年を取ることは避けられません。そうである以上、悪い面ばかりではなく、
よい面にも目を向けて残りの人生を充実させたいものです。

          株式会社PHP研究所発行 「人生は価値ある一瞬」より

         


           私も一言(伝言板)