デブは「根性無し」なのか
厚生労働省は10月17日、目標数値を定めた「健康日本21」の中間実績を公表した。健康日本21は国民の健康増進を目的として2000年に策定された計画である。国民の食生活や運動、たばこ、アルコール、糖尿病、がんなど9分野、約110項目について、10年計画で現状に対する目標値を設定したものである。
今回の発表では、成人男性の肥満者が策定当初の24.3%から29%に達するなど約30項目で悪化していた。例えば、運動習慣も「日常生活の歩数」が男性7532歩、女性6446歩で目標値(男性:9200歩以上、女性:8300歩以上)に近づくどころか、基準値(男性:8202歩、女性:7282歩)より減少した。また朝食を抜く人は「中高生」「20代男性」「30代男性」で悪化し、「1日当たり食べる野菜の量」も基準値を25グラム下回る267グラムだったという。
厚生労働省様には悪いが、マア当然の結果ではないだろうか。そもそも、目標値を定めたからと言って、それを達成する手段と戦略がなければ無意味でしかない。手段といえばおきまりの「普及・啓発」くらいのものであろう。普及・啓発とは、要するにダメな子に対するお説教である。しかも、そのお説教たるや「そんなことやってると、こんな恐ろしい病気になるよ」という脅しと、あとは精神論だけしか内容がない。則ち、肥満者は「運動もせずに、大飯を食っている」だらしのない生活をしているのだから、もっと根性を出して「食う物を減らし、しっかり運動しなさい」というわけだ。結果、肥満者は意志薄弱な情けない人間として世間からさげすみの目で見られる羽目になる。
果たして実際の所そうなのかといえば、厚生労働省ご自身が肥満などの「生活習慣病」の英訳をlife-style
related desease(生活様式関連病)としているように、生活習慣だけでデブになるわけではない。精神論万能の予防医学と違って、科学的な医学(?)では、いくつもの「肥満遺伝子」が見つかっている。おそらく、これからもドンドン発見されて行くであろう。もちろん、これも肥満関連遺伝子とも言うべきものであろうし、その肥満発症の強さも様々であろうが。
生活習慣そのものも個人の意思だけでどうにでもなるものではない。昼間っからプールだの「ウォーキング教室」などに行ける者など世間に一体幾らいるのか。それどころか、リストラの恐怖で残業続き、いつ鬱になっても不思議ではないお父さん、単身赴任の親父さん、三交代勤務でくたくたの労働者、長距離通勤に職場の人間関係の軋轢などなど挙げればきりがない。それでも仕事上体を動かせる職業ならまだしも、座ってなければ怒られたり投書がきたりのデスクワークのサラリーマンは、意識的に動かなければ運動不足になってしまう。しかも、子供の塾の送り迎えまでさせられた日には、深夜営業のフィットネスクラブでもなければ、運動不足の解消など不可能である。仮にそんなものがあっても、金がなければどうしょうもないし、明日の仕事もしっかり待ちかまえている。通勤の際に歩いたり自転車に乗ったりするとかの工夫もあるにはあるが、歩道が整備されていなければ健康づくりどころか仏様づくりになりかねない。生活習慣のほとんどは自分の意思以外の社会的要因で決定されると言ってもいいと思う。
今若い女性の「摂食障害」と極端な痩せが問題になっている。精神心理的な要因が大きいと思われてはいるが、詳しい原因は分からない。ただ、「痩せた女性をよしとする」社会の目が要因の一つであることは否めないと思う。今流行のメタボリック・シンドローム(要するにデブのことだが)を意志薄弱者と決めてかかる社会の目と、それをあおる保健行政やしたり顔の学者様達は、おそらく疲れ果ててただでさえ死にたいと思ってるお父さんたちに意志薄弱者の烙印を押し、結果、飛び降り自殺を図ろうとしている人の背中を押すことになるかも知れないことをご存じなのであろうか。