パラドックス三題
福祉社会のパラドックス (『幼児化する日本人』北原 惇 リベルタ出版より完全引用)
「福祉社会の現実は次のように要約することができる。自由、平等、民主主義の社会では福祉が当然のものとされ、国民は福祉政策を要求し、実際にそれを実行する政党が政権を握る。福祉のありがたみを味わった国民はそれ以上の福祉を要求し、しばしば国の経済成長にともなわない要求さえする。増税につぐ増税と債券発行の継続による財政破綻は、インフレ、生活水準の下落、失業率の増加、通貨切り下げなどになり、福祉社会の住民は逆に貧乏になり、福祉の必要性がそれまで以上に増加する。住民が福祉を要求し続けることによって悪循環をつくりだすという、大変皮肉な結果になるわけである。そのような体験をした人間は無力感を感じる。」
これと類似のパラドクスを一題
医師過剰のパラドックス
「医師過剰の社会では、医療機関の買い手市場となり医師の過重労働が当然のものとされる。医師の過重労働は、医師不足感をあおり、さらなる医師養成を要求する。医師の増産につぐ増産は、医師の過剰と、さらなる買い手市場を招来し、医師の過重労働を招く。その結果、医師養成の必要性がそれまで以上に増加する。医師の過剰が医師の過重労働と低賃金を促進し、そのような体験をした医師は絶望感を感じる。」
上とは趣が違うがもう一題
名医のパラドックス
「名医は、誤診や失敗の率が低い医師である。名医を求めて重症患者や難治性の患者が多数殺到する。したがって、名医は、多数の患者、難しい患者、手間のかかる患者を診ることとなる。名医と雖も誤診や失敗は皆無ではなく一定の割合で起こるし、重症患者は死にやすく、難治症患者は治りにくい。名医は多くの患者を診るから、少数しか診ていないバカ医師に比べて、誤診される患者の数は多くなる。重症や難治性の患者を診ているので、軽症患者しか診ないアホ医師に比べ、不幸な転機をとる患者の率も数も多くなる。すると、世間の目から見ると途端に名医ではなくなってしまう。結果、重症患者も難治性患者も来ないただのヘボ医者になってしまう。」