諜報活動とは何か
スパイのお仕事といえば、
「政治や軍事的な目的でひそかに相手の陣営に入り込み相手方の機密情報を探り出し、分析を行う。基本的には暗殺などの特殊工作を含まない。」
、という理解が一般的なようである。
しかし、情報収集などはスパイ活動の半分にも満たない。残りの半分は「情報操作」である。すなわち、情報をねじ曲げたり、変形したり、あるいは捏造したりして敵の判断を誤らせる活動である。尾崎秀實の活動はまさにそれである。
情報操作・収集以外のスパイ活動の例として、日露戦争時の明石大佐の活動がある。明石元二郎大佐はソ連邦の創設者レーニンに資金を提供して彼らの活動を支援した。ロシア軍のかなりの部分を革命対策に振り向けさせ戦況を有利にするためである。常識で考えて、近代国家としてヨチヨチ歩きを始めたばかりで、国際的な駆け引きにも未熟であった当時の日本でさえこの程度のことをやれるのであるから、欧米列強などは、さらに巧妙で精緻な工作活動をその数十倍、数百倍はしていたであろう。犯罪でもそうであるが、手口が巧妙であれば、バレないし証拠も残さない。「基本的には暗殺などの特殊工作を含まない」ということは例外的な活動として暗殺なども行うと言うことであり、某国の邦人拉致も諜報機関職員の犯行である。
さて、このたび、米ブッシュ政権の情報操作が明るみにでた。11月28日のリビー副大統領首席補佐官の起訴は、イラク戦争を巡るブッシュ政権の、メディアを通じた水面下での情報操作の一端を明らかにする稀有な機会となった。リビー補佐官は中央情報局(CIA)内にあるイラクの大量破壊兵器保持への懐疑論を警戒し、反対を抑え込むため、ウィルソン元駐ガボン大使が2003年7月、「ニジェールでイラクがウラン原料を調達したという説には疑問がある」と主張すると、元大使の妻がCIA工作員であることをリークし、主張の信用性をおとしめようとしたのである。
共産主義国家などは情報を100%余すことなくコントロールして、国民を自由に騙すのが当たり前であるが、米国のような民主主義国ではさすがにそうはいかないので、国内的にも情報操作を要するというわけである。さすれば、他国の情報操作が本業であり本分である米国諜報機関が他国の国策を自国に有利になるように工作しているのは、いわば当然ではないのか。日常的に、マスコミ関係者、企業経営者等々世論形成に影響力を持つ人々に接触し、あからさまに、あるいは、それとなく、真偽取り混ぜた種々の情報を吹き込んで、世論を誘導し、結果的に指導者の判断を操作する。
当然、日本に対する諜報活動も、戦前も戦後もそして現在も行っていると考える方が当たり前である。国益のための情報収集、情報操作、時にはそれと分からないような要人の暗殺さえも諜報機関の「業務」なのであるから。