患者様と株式会社病院

 
日面白い話を聞いた。先頃「独立行政法人」になった元国立病院の医師の話によると、「患者様という職員と患者さんという者とがいるが、患者様で統一しろ」という内容の投書があったのだという。最近は、医療機関のサービス面、特に医師の態度が重要視されている。「威張っていて、不親切、事務的な冷たい医者は避けなさい。親切でやさしく、すぐ診てくれるのがいい医者です。」「事務職員、看護婦が礼儀正しく親切な病院がいい病院です。」とか言うアドバイスが氾濫している。筆者の経験でも、やたら威張りくさっている医者に名医はいなかったように思う。さすれば、愛想がいい、猫なで声の医者はどうか。やっぱりろくなヤツはいなかった。

 
者が名医だなと思った医者の特徴は、愛想は悪いが威張らないし怒らない。患者が危険なとき、外科医なら術後、は絶対に患者から離れない。自分の患者の臨終は必ず看取る。最も名医と思ったY先生などは、土曜も日曜も祭日もなく、必ず一日に二回は回診する。何と、アキレス腱断裂で自分自身が入院していたとき、他の医者と主治医を交替していたのだが、元の患者の回診をしていた。もちろん技術も確かであったし、研修も怠らなかった。時間外勤務をしても手当を請求しなかった。しかし、実に愛想の悪い医者だったし、看護婦に厳しかった。今のマスコミの名医の基準から見るときっとダメ医者になるに違いない。

 
者の言葉遣いや態度で病院の善し悪しを決めている人に、「非常に愛想がよく、言葉遣いも丁寧で「患者様」というが、知識が浅く技術が未熟な医師と、ぶっきらぼうで態度が悪いが腕は抜群の医者との二者択一を迫られたらどっちを選びますか。」と尋ねたい。風邪っぴきならいざしらず、命に関わる病気の時なら迷わず後者であろう。すなわち医師の善し悪しの根本はやはり学識と技術なのである。愛想がいいとか言葉遣いが丁寧などというのは付録の条件に過ぎない。もちろん学識があって腕もよい上に愛想までよければそれに越したことはないが、少なくとも病院や医者を選ぶ基準としてはあまりに下らぬ要件だと思う。

 
近、株式会社に病院を経営させようとする動きがある。仁術でなく算術の上手な医者が多いからして、株式会社に病院を経営させようという「理論」らしい。株式会社は顧客のニーズを掴み満足のいくサービスを提供してくれるから患者の利益にかなうというのである。冗談ではない、株式会社の使命は、株主に配当を行うことにある。配当の多い株式会社は良い、配当のできない株式会社は悪い、すなわち利益を上げることこそ株式会社の絶対命題なのである。すなわち、株式会社は算術万能の病院を作らなければ株主を裏切ることになるのである。一方で今の医者は「医は算術」になっていると批判しながら、算術が至上命題の株式会社に病院を経営させることが国民の利益になるというでたらめな「理論」が大手を振ってまかり通っている。さすがに坂口厚生労働大臣は自身が医師だけのことはあって、何とか株式会社病院を阻止しているが、いつかは虎視眈々ともうけ話に群がる金貸しどもに押し切られてしまうだろう。暗澹たる気持ちになるのは筆者だけなのであろうか。

最近読者の方からコメントを頂いた。「〜様」という呼びかけは、相手と距離を置き、分け隔てをし、人間関係の親密さを損なうものである。筆者も全く同感である。



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