自殺の真因

 日本では、このところ年間3万人もの人が自殺でこの世を去っているという。大変な数であるが、その自殺の原因とは何であろうか。自殺の原因とされる問題のうち最も多いのが健康問題、次が経済・生活問題、さらに家庭問題だという。

自殺原因あれこれ
 高松地検は医療過誤が原因で足切断となり、それを苦に自殺したとして「医療過誤をしでかした」院長を在宅起訴した。
 香港の人気俳優で歌手のレスリー・チャンが香港の高級ホテルから転落して死亡したのは20年間交際していた恋人の浮気を目撃したためだそうである。

信じられないような自殺の原因
 アメリカ合衆国ウィスコンシン州の若者が自殺した。母親はソニーを相手取って訴訟を起こした。曰わく「自殺の原因はゲーム依存症」でその依存症の原因がソニーのゲーム機だというのである。
 中国貴州省貴陽市で8歳の小学生が自殺した。原因は「宿題のやり残し」だそうである。陝西省高陵県では成績不振が原因で受験生が服毒自殺したという。

校長の自殺
 最近、校長先生の自殺が多く報道されている。以下幾つかの例を見てみる。校庭中央にあった鉄製のサッカーゴールが突風で倒れ、昼休み時間中に遊んでいた中学三年生が下敷きになり死亡する事故を苦にして校長が首つり自殺した。広島県では、民間人校長として尾道市立の小学校に赴任後一年も経たない56歳の校長が校内で首つり自殺した。広島県では、それ以前にも県立高校の校長が自殺したり三原市にある養護学校の校長が自殺したりしている。広島県教委の調査によると、教員組合が校長の権限を不当に制限し、自殺は学校運営に苦しんでの結果だったという。確かに、広教組は活動方針に「民間校長に反対」と明記している。一方、広教組は逆に「県教委の採用方法や支援策に落ち度があった」と主張している。尾道市立の小学校の校長の自殺のあと、尾道市教育次長(55歳)が自殺を遂げた。教育次長は、某市民団体から、自殺した民間出身の校長が精神的な病気で休暇を申請した際の対応などをただす質問状を受け取っていた。尾道市教委の報告書によると、自殺した校長は「心労が重なり病院で診断を受けた結果、情緒不安定であり休ませてほしい」と市教委に申し出たが、市教委側が励まして引き続き勤務することになったという。
自殺した尾道市教育次長は、市教委の報告書作成や発表後の取材対応などを担当していたのだ。校長の自殺を発端に教育次長が自殺するというまことに不幸な出来事である。
 三重では松坂商業高校の60歳の校長が自宅庭で首をつって自殺した。一部では、自殺の動機は同校の教師が起こした差別問題に起因するというが、遺書はなかった。
 奈良県では天理市立小学校の60歳の校長が首をつって死亡した。同校長が勤める小学校の男性教諭が担任の生徒に対し、養護学校に通う姉を差別する発言をして女児が半年以上不登校となる問題が発覚し、その処理に追われての自殺とみられている。

警察官の自殺
 1995年に富山県警に覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された男(39)が、県警捜査幹部の指示で送検前に釈放、立件も見送られ、事件がもみ消された疑いがあることが明らかになった。当時の刑事部長や富山署長ら複数の幹部が関与していたとされ、男は暴力団や覚せい剤に関する事件の情報提供者だったという。そして、当時の富山署長が事件が明るみに出たその日に、自宅で自殺した。動機は明らかではないが、事件発覚との関連性を指摘する声もあった。
 知り合いの女性会社員にセクハラ行為をしたとして、北海道警本部警務部付に更迭された前署長(59)が自宅で首つり自殺を図った。家族と県警本部長あての2通の遺書が見つかり、「責任を取ります」などと書かれていたため、自らの不祥事を苦にしての自殺とみられる。道警は自殺した前署長を強制わいせつの疑いで被疑者死亡で札幌地検に書類送検した。被害者の告訴がない中での書類送検は異例で、全国で相次ぐ警察の不祥事に対する批判が強まっているのを受けてのことらしい。
 奈良県警の汚職事件で奈良地検は元警視(58)らを書類送検した同県警の捜査を不十分として、異例の再捜査に乗り出したが、捜査開始直後、元警視は焼身自殺した。

不況と自殺
 回復しそうにもない不況の中自殺は一向に減る気配を見せない。巷では、リストラや倒産などの経済苦が自殺増加の原因だと言われている。東京都立衛生研究所は「日本における自殺の精密分析(1999)」で「自殺の増減は景気の動向と密接に関連している」と指摘している。やっぱりか、と言いたいところだが、どうも日本以外ではそのような傾向はないらしい。人口10万人あたりの自殺率は、日本24.4(01年)、アルゼンチンは6.6(93年)、エジプトではゼロに近い。

うつ病と自殺
 トヨタ自動車の男性社員(35)がうつ病にかかり自殺したのは業務が原因だとして、妻が、労災と認めず遺族補償年金を不支給とした愛知県の豊田労働基準監督署長の処分を取り消すよう求めた裁判で名古屋高裁(小川克介裁判長)は、一審判決を支持して、「うつ病とそれに基づく自殺には業務起因性がみとめられる」と認定した。
 自殺の90%以上は、憂うつ、分裂病、その他の精神病性の病気など、情動的な障害に関係して起こっている。社会的孤立、配偶者の死、重大な身体的疾患、老齢、失業や経済問題、信頼していた人間の裏切り、罪の意識、薬物乱用、アルコール中毒などの耐え難い強度のストレスにさらされ、うつ病あるいはうつ状態が発生する。ところが、うつ病患者を早期に発見する仕組みが世間にない。下手をすると、うつ病患者に対し「頑張れ。」と励ます。極度のうつ状態で自殺する気力もない人が、この「励まし」によって自殺を企図してしまうのである。病で動けなくなっている患者に対して、「休みなさい」と言わずに、逆に「頑張れ」と励ますのは酷であるばかりか自死を誘発するのである。これは、日本社会の特徴なのであろうか。

うつ病
 うつ病とは憂うつで気分が落ち込み、気力がなくなり、日常生活に支障が出てくる精神障害の一種で、アルコール依存症と並び、先進国に多い心の病気である。最近は「軽症うつ」が増えているという。
 主な症状としては、イライラ、不安、焦燥感、無気力、集中力の低下、考えがまとまらない、不眠、全身のけん怠感、頭痛、胃痛、食欲不振、肩こりなどがある。症状が悪化すると、自殺願望を抱くケースもある。抗うつ剤など薬物治療が有効で、精神障害の中では治癒率が高い。
 米精神医学会の分類では「気分障害」とされ、うつ状態だけの「単極性」と、気分が高揚しすぎるそう状態とうつ状態の両方ある「双極性」に分類される。何らかの心理的、精神的ストレスをきっかけに発症する「心因性」、体質や遺伝などが原因と考えられる「内因性」、病気や治療用薬物の影響で引き起こされる「身体因性」に分類する方法もある。

精神科に対する偏見
 よくテレビのニュースなどで「犯人には精神科への通院歴があるとのことです。」というふうにさらっと言うことがある。もちろん、精神科へ通院→頭がおかしい→犯罪を犯すと言っているのである。筆者は犯罪者、特に一般人には到底理解不能な猟奇事件や性犯罪の犯人は「生得的異常者」だと確信している。しかし、これと精神科的疾患とは全く別次元の分類だと思っている。つまり心の病を持たない人の中にも極悪人はいるし、心の病を持つ人の中にも極悪人はいるのである。
 マスコミが「精神科通院歴」とひとくくりにする心の病気の中には、統合失調症、うつ病、PTSD、強迫神経症、等々たくさんある。症状もそれぞれ千差万別である。うつ病などは、精神活動が低下しており、とても人を殺すエネルギーなど存在しない。当たり前だが、阪神淡路大震災のあと世間によく知られるようになったPTSDの患者は決して犯罪を犯したりしない。しかし、マスコミは「精神科通院暦がある」とさらりと言うことによって、視聴者をして「そうか、それが原因なのか」と思わせるのである。もちろん、マスコミは「事実をニュースにしたまで」などと説明するのであろう。しかしいろいろな事実のなかで、「精神科通院歴」が報道に値する事実と判断するが故に報道するのではないのか。このように精神科への偏見は世間に根強く残っている。
 さて、一方
「人権屋」の連中がタダの犯罪性向にすぎない者まで「人格障害」という疾病だと言いだし、責任能力を持ちだしては極悪人を無罪や減刑に持ち込むものだから、精神科患者に対する偏見はいやが上にも増幅する。当然のように、精神科に行く事に対し抵抗を持つ者が世間には多い。
 うつ病の患者も、精神科に行くことによる世間の白眼視をおそれ、精神科に通わなくてはならなくなった自分にショックを受けるため、医療の恩恵から遠ざかることとなり、下手をすると症状が悪化し自殺に至ることさえある。病院に行けば、助かった命が失われているのである。精神科がもっと身近な存在にならなければならないし、そのためには世間の偏見を取り除かねばならない。

自殺の遠因・近因
 自殺の原因について世間では簡単に、借金を苦にしてとか、失恋が原因でとか、成績を苦にして、とか言うのであるが、遺書でもあればともかく、そう簡単に自殺の原因を勝手に推測してはならない。ましてや自己の政治的立場から「あの連中のせいであの人は自殺したのだ。だから、あの連中は悪人だ。」といった宣伝には簡単に乗せられてはいけないとおもう。ただし、
筆者の経験から言うと、訳の分らない教組の連中のしつこくも馬鹿げたつるし上げや攻撃的な言動が通常人にとっては耐えがたいストレスになることは確かである。それにおそらく偏向マスコミの教条的な反権力報道もまじめな人々にとって耐えがたいストレスになるであろう。しかし、いずれにしても世間で言うところの「自殺原因」は自殺の遠因なのである。耐えがたいストレスからうつ病やうつ状態になったとき、周囲からのサポートもなく、偏見による敷居の高さから精神科の治療も受けられないことが自殺の近因である。
 先に述べたように、うつの原因は「心因」ばかりではない。原因のよく分らないものもあれば、薬物の副作用の時もある。そのような場合でも自殺することはよくあることである。自殺の予防は、遠因に対する対策ばかりではなくうつ及びうつ状態に対しても行う必要があるのである。



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