匿名は悪か
インターネットのホームページの管理者の多くはハンドルネームを用いているし、掲示板への投稿もほとんどそうである。これに対して、「匿名をいいことに言いたいことを言うとは卑怯なり」とのたもう御仁がいらっしゃる。果たして匿名は必ず悪なのであろうか。
自由民主主義社会における選挙は、一部を除いてほとんど無記名で行われる。何故なのか。これは各人の自由な意志による投票を保証するためである。記名投票にすれば投票後に有力者等から脅し、嫌がらせ、不利益な取り扱い等を受ける恐れが十分ある。へたな国では命さえも危ない。これでは自由な投票行動が実質的に出来なくなり、権力者の思うがままの政治が「民主主義」の名の下に行われる地獄となる。インターネットだって同じ事で匿名性があればこそ自由にものがいえる、本音が言えるのである。
しかし、一方、匿名をいいことに、害意をもって他人のプライバシーを暴き、事実のかけらもふくまない、あるいは事実と嘘をない交ぜにした巧妙なデマをまき散らし、誹謗中傷の限りを尽くす等の行為をするものが出て来る。
さて、よく「自由ばかり主張しないで義務も果たせ」と言う人がいる。もちろんその通りなのであるが、それよりもまず「自由は無制限ではなく自ずから制約を内在する」ということを強く言いたいのである。「人を殺す自由」「人をいじめる自由」、「人をだます自由」などあろう筈がないわけで「言論の自由」も当然無制限ではない。
リアルスペースでもヴァーチャルスペースでも、要するに「自由に内在する制約」をわきまえているかどうかが問題であって、匿名性に問題があるわけではないのである。