再論 医者は本当に良い商売か?
おねだり厚生次官岡光某が在任中に、「診療報酬を改定しても、医者の奥さん着るものがよくなるだけだ」という旨の発言をしていた。大臣より偉い高級官僚ともあろう者の言葉とも思えない、何ともはやはしたなくも情けない「妬み」に満ちた発言であろうか。果たしてというかやっぱりといおうか、岡光こそ自己の立場を利用しての我利我欲の悪行三昧の男であった。岡光のせいで、業者のみならず「外部の者との飲食まかりならん」との味噌も糞も一緒の理論がまかり通り、中央省庁の真面目なお役人様の正当な活動まで制約を受けているしまつである。
それはさておき、こんな悪徳官僚でさえ「ええ商売やなあ」と思っている医者という仕事が如何に大変かということについて、再び論じてみたいと思う。筆者は以前、主に以下のことを論じた。
1.医師の給料は実質のみならず額面で下がっている。
2.医師は大学を出ても、大学院生や日雇いの医師にならざるを得ないため、まともな月給はもらえない。
3.医師は一人前になるまでに長い年月がかかりその間の身分は極めて不安定である。
今回は、如何に医師が3K仕事かと言うことについてさらに論じてみたい。
多くの病院が赤字を出している
病院といえば「アコギに儲けている」という偏見がいまだに根強いが、事実は全く正反対である。良心的な診療をすればするほど、材料費や人件費がかさみ現在の診療報酬体系では赤字を出さざるを得ないのである。したがって、多くの病院が人件費の削減に血眼であるが一番ねらわれやすいのが医師の人件費である。当直料は年々下がり、医師が入れ替わるたびにその待遇が悪化している病院も珍しくない。人件費を削れなければ、良心的な医療を放棄するしかないような診療報酬政策なのである。
病院の他のスタッフの多くは医師に対して潜在的な敵意を持っている
医師以外の医療スタッフのことを以前パラ・メディカルと呼んでいたが、現在はコ・メディカルと呼ぶようになっている。則ち医療活動を共に行うスタッフという意味である。しかし、筆者に言わせるとコ・メディカルと呼べるようなスタッフはまだ少ないのが現状である。「患者に何が起ころうとその責任は、たくさん給料をもらって偉そうにしている医者がとればいいのだから、我々は労働者としての権利を力一杯主張していればよい」との考えの者が非常に多い。こんな連中は決してコ・メディカルなどではない。第一職業的な自覚も誇りもないではないか。事務の連中に至ってはもっとひどいのが現状である。何せ、今の世間「努力する者もしない者も皆結果の平等を享受できるのが正義である」との考えが浸透しきっているので、「仕事はせず、文句は言う、ねたみだけは人一倍」の連中がどこの職場でも主導権を握っているのである。
マスコミ関係者のみならず、司法関係者も医師を悪人だと思っている
マスコミが医師を悪人集団だという前提で様々な報道をしていることは多くの医師が感じているところだが、医師を悪人と確信しているのは何もマスコミ関係者だけではない。以前、アルコール依存症で、肝硬変でなくなった患者の家族が、主治医である開業医が「あんたに酒をやめろと言っても無理だな」といって禁酒を勧めなかったのが死亡の原因だと言って訴えた事件があった。なんと、判決の結果は主治医に損害賠償を命じるものであった。もう無茶苦茶である。この開業医の先生は、診療を休んで裁判に呼び出された挙げ句、この判決である。その憤激やいかばかりであったかと思うと気の毒どころではない。このように、訴訟をふっかけられたらもうおしまいである。アメリカなどでは患者本人や家族が別に何とも思っていなくても、弁護士が吹っ飛んで来て訴訟を勧めるそうである。遅かれ早かれ日本もそうなるであろう。ドイツでは医師の過剰のため、タクシードライバーや、ラテン語教師などで食いつないでいる医師が多いと言うが弁護士からは、「それでいいんじゃない」といわれているそうである。そういえば、以前筆者が中国地方のO県にいた頃よく通ったスナックに弁護士の先生が来ていた。その先生曰わく「我々は難関の試験を突破してきている、医師国家試験は受験したもののほとんどが合格するような試験に過ぎない。その割には待遇がよすぎる」との本音を吐いて居られた。
病気や怪我から回復しても感謝されることが少なくなった。
以前は、患者さんが回復し退院する際はもちろん、死亡退院の際でさえ患者さんや家族から真摯に感謝されたものである。感謝される側も、嬉しくもありまた身の引き締まる思いがしたものである。現在は大きく様変わりして、患者はお客さんであるので病院や医者は病気を治して当たり前、万一でも悪化したり死亡したりすれば、それは全て医者のせいであるといった考え方が圧倒的な主流になった。
医者は大して尊敬されなくなった。
「武士は食わねど高楊枝」ではないが、いくら給与が悪くても、いくら仕事がきつくてもみんなから尊敬されていれば人間がんばれるものではある。しかし、この側面においても医師を取り巻く現実は実にきびしい。「どうせ悪い事して儲けているんでしょ」「水増し請求なんかしゅっちゅうでしょ」「仁術より算術なんでしょ」「自分たちばっかり楽な仕事をした挙げ句、贅沢しているんでしょ」等々、悪口雑言、偏見、曲解のオンパレードである。まあどんな職業に就いているものにも悪人はいるから一部にそういう輩がいることも確かであるが、一部を全体に敷衍する思考こそ偏見である。尚、筆者の経験では医師には算術の苦手なものが多いようである。勤務医の場合で言えば、給料の明細など見ない者がほとんどであるし、見てもその意味など分からない人ばっかりである。さらに、時間外勤務も付け出さない者が多い。大抵の開業医は税務知識に乏しいので税理士事務所に任せっきりで、脱税のノウハウなど知らないどころか、知識不足で損ばかりしているのが現実である。なかにはアホな見栄をはって、所得番付に載りたい一心でわざと所得を多く申告する人までいたのを知っている。医者は世間的にバカになりやすいようである。
その他、世間の曲解の数々
「医師優遇税制で得している。」
そんなのは昔の話、今では優遇税制など使わず実際の経費を計算した方が得である。
「看護婦をいじめている。」
少なくとも国公立では医師の方がいじめられているのが本当である。ある大学病院の入院患者を患者の自宅近くの病院に移送する際、看護婦さんにも付き添ってくれるよう依頼したところ「我々は国家公務員で偉いから怪我などしたら大変である。ついては日雇いのあんたたちだけで行ってきなさい」と言われた医師が憤慨していた。
「医療計画の病床規制で既得権を守っている」
全くとんでもない曲解である。医療費の急激な増加に歯止めをかけるべく厚生省が打ち出した二次医療圏毎に必要病床を算定しそれ以上のベッドの新設を認めないという制度がある。医療費と最も関係するものが病床数であることを見いだした医療経済学者のM先生の研究を基に厚生省が打ち出した政策である。これに対しては、ほとんどの医師が自分たちの自由な発展を阻害するものとして撤廃をこそ望んでいるのである。蛇足であるがM先生はT大学経済学部卒で同大学の医学部で学位を取った変わり種で大の医者嫌いであった。
最後に、言うまでもないことだが医者は、外来及び入院患者の診療、種々の検査だけでなく、宿直、日直、急患呼び出し、休日自宅待機、受け持ち患者の異常や急変の際の呼び出し等々結構労働としてもきつい。さらに検査や手術で放射線を浴び、血液に接し、病原体にもしょっちゅう暴露される3Kの代表のような仕事である。
とある病院の外来の待合所で「医者はええな。週に三回診察しただけでぎょうさん金貰えて。」等との声。偏見とは怖いものである。
これでもまだ医者が良い商売と思いますか???