目的別歴史教科書のすすめ
最近、歴史教科書の問題で中国や韓国との間に軋轢を生じ、国内においても、議論がかまびすしい。いわゆる「右派」の人々は、「歴史教科書は自国をおとしめるようなものであってはならず、自国を誇りに思えない子供たちを作るようなものであってはならない。」と主張し、左派の人たちは「侵略の歴史から目を背けず、過ちを繰り返さないような教科書でなければならない。」という。
右派の主張のうち、なるほどと思えるのは、「世界史上の侵略のチャンピオン、イギリスをはじめ西洋列強の教科書に自国が侵略戦争を行いました、などと教えているものなど無い。」というのがある。要するに歴史教科書等というものは何処の国でも自国に都合が悪いことは書かないものだというのである。そうかも知れない。
左派の主張はといえば「真実」を教えることによって将来の日本の進路を過たないようにしようという。何となく「かっこいい」が、要は「真実」の内容である。
筆者は、「目的別に歴史教科書の内容を変える」ことを提案する。歴史学や考古学の学問的な成果と歴史教科書は必ずしも相関させる必要はないと考えれば、戦前の教科書がそうであったように「日本国の優秀さを教え愛国心を涵養する目的」であれば、都合の悪いことや不名誉なことを省けばよい。逆に世界の現実のわからないバカを量産して日本社会を崩壊させる目的なら「侵略戦争は日本の専売特許で、日本が軍備さえ持たなければアジアも世界も平和である。歴史の『真実』を見れば日本だけが侵略者であることがわかる。」とでも教えればよいのである。
歴史を学問の対象として過去の事実から現在及び将来の行動指針を得ようというなら虚心坦懐に、事前の価値判断抜きに『歴史的事実』を拾い出し、イデオロギーの色眼鏡を排除して、その因果関係について考察すべきである。
たとえば、太平洋戦争(大東亜戦争)について「日本の中国に対する侵略をアメリカが阻止した。」とか「日本はアジア解放のためにアメリカと戦った。」などというのが左派や右派の見方である。そのようなイデオロギッシュな主張では正しい国家戦略など立てられない。「日本がアメリカと対立したのは、日本の中国進出がアメリカの中国に対する野望とぶつかったからだ。」との考えに立った方が正しい戦略が立てられると思う。
同じように、日清戦争、日露戦争の歴史的な評価についても、左派のように「日帝による朝鮮、中国侵略」等と解していては世界史の現実が全く見えないし、右派のように「乃木大将、東郷元帥、広瀬中佐の大活躍によって大勝利を収めた」というような講談解釈では、これまたさっぱり役に立たない。英露の対立のなかでイギリスの代理として戦い、戦時国債の引き受けから講話の仲介まで至れり尽くせりの米英のバックアップによってようやく勝てた戦であったという現実を知ってこそ、現在における基本戦略である「日米機軸」の重要性と不可避性が理解できるのではないか。
歴史教科書など所詮学問や国家及び個人の行動指針形成とは無関係という立場なら、その信奉するイデオロギーに基づいて都合のよい方を選択すればいいと思う。いわば目的別歴史教科書のすすめである。