第1197回 過去から逃げない未来を

 
平成28年 1月 7日〜

 人間はなぜ、同じあやまちを繰り返すのでしょうか。
私は、過去をきちんと引き受けずに、逃げているからだと思います。

 多いのは、他人や環境のせいにするケースです。たとえばスポーツの世界で、
「気温が高かったから」「風が吹いたから」などと、どの選手にも共通する条件を
敗因に挙げる選手や指導者がいます。
そうした言い逃れは、選手自身が受け止めるべき敗因をどこかに追いやって
いるにすぎません。


 スポーツだけでなく、国家や企業においても、また、個人においても、
同じように、「条件が悪かったから」「そのときは仕方がなかった」
「考え方は正しかった」などと理屈をつけて、うまくいかなかった過去を

やむを得なかったこととし、忘れ去ろうとする例はいくつもあります。

そのときはそのとおりだったのかもしれませんが、「条件が悪かった」
「仕方がなかった」だけで終わりにしてしまっては、同じあやまちを
繰り返してしまうだけです。それでは。“過去から逃げる未来”しか
ありません。


 失敗したのはどうしてなのか。過去のあやまちを冷静に振り返り、
そのうえで、今後どうすべきかを考えて生きる。
私はそれを。“過去から逃げない未来”と呼んでいます。


 理屈のうえではそういう生き方が正しいのですが、苦い失敗や
恥ずかしい体験など過去の嫌なことは、二度と思い出したくないと
思うのが人間の素直な感情で、私も思い出したくない過去がない
わけではありません。

国や企業の場合はともかく、個人の場合はそれをわざわざ人に話す
必要はないにしても、思い出したくないからといって、なかったことに
してしまうのは、過去から逃げているのと同じです。


 たとえ仕方がなかったとしても、それが間違っていたら、「私が間違えた」
「私がミスをした」と口にしてみる。そうやって「私はこういう失敗をする
人間なのだ」と、自分の中で過去をありのまま引き受ける姿勢が、
未来を変えることにつながります。

その結果、自分も生きやすいだけでなく、他人の失敗にも寛容な生き方が
できるでしょう。


          株式会社PHP研究所発行 「人生は価値ある一瞬」より

         


           私も一言(伝言板)