第1190回 食は いのちの基本

平成27年 11月19日〜

 私の若いころと比べたら、今の時代は驚くほど物が豊かになりました。
食べ物ひとつとってもそうですし、着るものにしても、種類・デザインは
豊富で、選ぶのに迷うほどです。

そればかりか、生存上さして必要ないと思われるものを、あたかもなくては
生きていけないかのように欲望を刺激され、商品を買わされてさえいます。
まるで消費者としての私しかいないかのようです。


 人間が欲望を膨らませてどんどん消費をしていけば、どうなるでしょう。
いずれ食料も飲料水も足りなくなります。
すでにウナギやマグロの絶滅が危惧されていると聞きます。


 今やスーパーでは、魚の切り身や牛肉がパックにして売られています。
便利で効率的かもしれませんが、消費者は魚と切り身、牛と牛肉が
実感あるものとして結びつかず、手にしたパック食品がどういう経路を
たどってきたかも実感できません。

最近は海外で生産されて日本へ届く商品も多く、ますます流通が見えなく
なっています。


 「食」というのは、いのちの基本です。
せめて自分の食べているものがどこから来ているかを身近に自覚して、
食することが大事ではないかと思います。

 昔、「お米という字は八十八と書くように、八十八種類の労働に
よって私たちの手元に届くのだから、大事にいただきなさい」と
躾けられたものでした。
なにもお米だけにかぎりません。
親からは物を大切にしなさいと教えられ、食べ物を残せば、
「もったいない。粗末にするな」と叱られました。

現在の日本では、まだ食べられる食品が山のように捨てられています。

 この調子で世界中の人が野放しに消費をしたら、遠からず行き詰まるのは
目に見えています。
食料については、深刻な対立も出てくるでしょう。
難しいでしょうが、欲望の量をコントロールするとともに、欲望の内容も、
物質的な豊かさだけではなく、絵や音楽、読書など質的な豊かさで
満たしていく社会に変えていく必要があるように思います。


    株式会社PHP研究所発行 「人生は価値ある一瞬」より

         


           私も一言(伝言板)